ヴィヴァルディ(4)


(ライトルナは仲良しよ❤)
 ピエタ合奏団の練習風景は、いつもと雰囲気が違っていた。当たり前だった。そこにはヴィヴァルディが再びピエタ合奏団に君臨していたのだ。ヴィヴァルディは57歳とは思えないくらい、情熱をもって合奏団を指導していた。時には団員を怒鳴ったりもした。
「君たちは、この曲の散文を読んでいないのか?【春の第2楽章は、花が甘く匂い木の葉が優しくざわめくのだ。君たちのヴァイオリンでは、突風によって花も木の葉も吹き飛んでしまうぞ。こら、ヴィオラも笑っている場合ではない。羊飼いは番犬を傍らに安らかに昼寝をしているのだぞ。君たちが弾いている音は番犬の寝息なんだぞ。なのになんだ、その音は!それでは狼の唸り声ではないか!」
 それに応じた訳ではないだろうが、遠くでデンが何度も吠える声がした。
 それに皆が爆笑した。ヴィヴァルディも苦笑した。
 しばらくして今度は、懐かしい声が練習室内に響きわたった。
「なんじゃ、あのバカ犬は。わしに飛びついてきよったわい。もうちょっとでヴァイオリンを壊されるところだったぞ。」
「ストラド!」
アンナとキアーラが同時に叫んだ。
「おうおう、可愛い娘たちよ。皆元気だったかい?ところで奴さんが戻ってきたそうじゃないか。今の怒鳴り声はまさしく奴さんの声じゃな。」
老マエストロがそう言うと、その奴さんは、
「マエストロ、まだまだお耳もお口も健在ですね。お元気そうでなによりです。ところで、はるばるヴェネチアまでどうしてお越しになられたのですか?」
と、丁重に挨拶をした。老マエストロは、
「ヴァイオリンを持って来てやったのじゃ。アンに約束したんでな。おそらくこれがストラド最後の名器になるだろう。」
 それからキャラ、馬車に積んである楽器を全部持ってきておくれ。」
と言うと、ドカッと疲れたように椅子に腰かけた。それを見たヴィヴァルディはピエタ合奏団の全員に向かって言った。
「よ〜し少し休憩しよう。私はマエストロとゆっくりするので、皆は休憩後【四季】を全曲練習しておくように。独奏は・・・そうだなキアレッタがしなさい。アンナは新しいストラドを弾いてみるといい。」