管楽器の練習部屋にて(1)


(ライヴィッチの部屋にて・・・モナ)
 ピエタ合奏団はヴァイオリンなどの弦楽器がほとんどだった。だから必然的に弦楽合奏曲がプログラムの中心になる。しかも、上級者と初心者が一緒に演奏できる合奏協奏曲やソロ協奏曲の練習は、ピエタ合奏団の演奏技術の向上に大変効果をあげていた。弦楽器の者だけが合奏練習をしている間、管楽器の者は別室で練習する事になっていた。
 まだ弦楽合奏の練習に加わっていないアンナは、練習の合間に他の者が練習している部屋を覗き伺うのが習慣になっていた。
 オーボエの部屋にはアントネッラがいた。部屋の隅でアンナと同じ歳のクララがオーボエの練習をしていた。隣で年配の女性が一緒に吹いていた。反対側の隅でアントネッラがフルートを吹いていた。練習というより吹きまくっていると表現した方が正しいようだ。しかも彼女が吹いているのはフルート協奏曲【海の嵐】だった。同名のヴァイオリン協奏曲とは別の曲のようだったが、曲の雰囲気は似ていた。アンナは今度の練習でヴァイオリン協奏曲の【海の嵐】をしてみたくなった。
 アントネッラがアンナの気配に気づいたのか、声をかけてきた。
「あらアンナ、どうしたの?もうピエタには随分と馴れたようね。
 今度あなたがキャラと演奏する2つのヴァイオリンの為の協奏曲、楽しみにしているわ。練習さぼって絶対に見に行くわね。」
「ありがとう、頑張ります。アントネッラさんはオーボエを吹かないの?いつもフルートしか吹いていないようだけど。」
「そうねえ、オーボエはお姉さんとクララに任せているわ。私、あの地味で鼻にかけたような音が嫌いなの。だから私はフルートだけでもいいと思っているのよ。」
「でも管弦楽曲のほとんどは、オーボエバッソンなのでしょう?」
「そうなのよねえ。仕方なしに2番オーボエをしているけどね。でもプレーテ・ロッソがフルート協奏曲を6曲も創ってくれたので今はそれを中心に練習しているのよ。」
「ねえ、アントネッラはどうしてピエタに来たの?」
「あら、なぜそんな事を訊くの?では、あなたはどうしてここへ来たのかしら?」
「私は父が亡くなって、ここへ来る事になったの。」
「私も同じようなものよ。では似た者同士仲良くしましょう。どうぞよろしくね。」
 アンナは、アントネッラの不誠実な応答が気に入らなかった。それで、もうちょっと無邪気を装って、アントネッラの脳細胞を揺さぶってみる事にした。