パオラの話(1)


(人の話はピシッとして聞いてます。)
「アントニオが結婚するとキャラから聞いて、私が彼に会いにいった話は、以前アンにしたでしょう。私はそれからも週1回程度、アントニオに会いにいったのよ。はじめはキャラの為にと必死だった。少しでもキャラの様子をアントニオに伝えたかった。そうすれば、アントニオの気がまた変わるかもしれないって思ったの。実際にアントニオはそれを喜んでくれた。だけど、彼はすぐに結婚してしまったわ。しかたがないわね。彼の奥さんになった人は妊娠していたのだから。
 それからも私は、月に1回程度アントニオに会ったわ。それはキャラの話をするのが目的だった。彼は喜んでくれたし、彼が喜んでくれると私も嬉しかった。それで全ての人が円満になれると信じていたの。
 アントニオは私にいろいろな話をしてくれた。音楽の事、ピエタの事、教会の事、ヴェネチアの事、海の事、船の事、彼はなんでも知っていたわ。それに比べて私は何も知らない籠の中の小鳥。今は太目だけど14歳だったその頃は、今より少しだけ痩せていたわ。私はアントニオからいろいろな話を聞くのが楽しみだったわ。その話で私は少しずつ太ってきたのよん。
 私にとってアントニオとの時間は、まるでディナーのよう。場所はゴンドラの上。時間はお昼の2時。前菜はキャラの話から始まるの。パスタは音楽のお話。メインディッシュはアントニオの豊富な知識からいろいろな話が聞けるのよ。ドルチェは私のほっぺに軽くキス、それでお別れよ。約1時間のディナー・コースだけど私にとっては、その時間は掛け替えのない宝物のような時間だった。そしてそのディナーは4年間、場所も時間も変わる事がなかったの。」
 パオラの話が止まった。アンナは、パオラの横顔を見ていた。彼女は悲しそうだった。アンナは黙ってそのまま見ていた。
 パオラはしばらくしてまた話しはじめた。