アンナ、パオラの部屋を訪れる(1)


(モナちゃん、ライの部屋を訪れる)
 その数日後、アンナはパオラの部屋のベッドの上に腰掛けていた。部屋の窓がガタガタと激しい音を発てながら震えた。その音は、まさしくヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲【海の嵐】の冒頭にある激しいトレモロ奏法のようでだった。
「そうだったの、結局キャラはアンに全てを話したんだ。なあんだ、せっかくキャラの素敵な話で止めておいたのに。」
(パオ、それはないでしょう。恋の結末というキャラの大事な思い出は、キャラ自身で話すべきだとパオは思ったのでしょう?)アンナはそう心で思った。
「それに私の手紙もアンに見られたという事ね。あ〜あ、ヘタクソな字も見られたのね。よく読めたわね。あれが読めたのならエジプトのヒエログリフだって解明できるわよ。」
(あ〜あ、パオったらまた動揺している。話を逸らせても無駄なのに・・・絶対にアントネッラの話をしたくないのね。)
「アン、実は私ね、アントニオの事が好きだったのよ。もちろんキャラを裏切ってまで謝肉祭で会ったりしていないわ。だからこそあの時は、私も傷ついたわ。だからって騒いでも意味ないじゃない。騒いだりするともっといろいろな人を傷つけてしまうわ。だから手紙でキャラに伝えたのよ。二人の胸の内に収めておきましょう、と。
 キャラは私の気持ちを受け入れてくれたわ。翌日からのキャラは、誰に対しても何もなかったように明るく接していたわ。特に私にはとても優しかった。本当に嬉しかったわ。私はそれだけで幸せだったのよん。」
(パオ、申し訳ないけど・・・ごめん!)
「ねえパオ、本当にごめんなさい。これは好奇心ではないし、パオへの猜疑心でもキャラへの悪意でもないの。私の思考の破片がどうしてもつながらないの。それは私の問題ではなく、ピエタやヴィヴァルディ先生が関係している事かもしれないの。だから、どうしてもパオの協力が欲しいの。お願いパオ、私を嫌わないで。一つだけ私に質問させて。」
 あの単刀直入のアンナが回りくどく言っている。パオラは観念した。それなら先手必勝しかない。とりあえずパオラは先手を打った。
「わかったわ。全部話するわ。もちろんアントネッラの事もね。それでいいのね?」
そうパオラが言うと、アンナは肯いた。