パオラの裏切り?(3)


(いざ、謝肉祭へ)
 キアーラは謝肉祭の仮面に【調和の霊感】の2つのヴァイオリン独奏の旋律を書き入れる事で、この仮面の主が自分だとアントニオにわかってもらえるようにした。それをパオラに渡したのだから当然キアーラも、その仮面を見ただけでパオラだと容易にわかる。問題はどこへ行くかわからない彼女を見逃さないようにする事と、彼女やアントニオに自分がばれないようにする事だ。
 キアーラは一般的な年増の女の仮装をしてピエタ慈善院前のカンピエッロという小広場でパオラを見張る事にした。
 午前中はピエタ合奏団の練習があった。少女たちは夜の外出は禁止されていた。17歳のパオラも当然、夜の外出は禁止だった。だとすれば彼女が出かけるのは昼からだ。キアーラは昼になると小広場からピエタの通用門を見張った。
 2時間待っただろうか。キアーラは自分が卑しい人間のように思えて、辛く長い時間を過ごした。幸い仮面のお蔭で、その苦悩した顔は誰にも見られなかった。
 その時だった。謝肉祭の衣装を着て、あの仮面を被った彼女がピエタから出てきた。キアーラは彼女の後をつけた。彼女は聖マルコ広場を、男好きするような素振りをしながらウロウロしていた。そこへ仮面をつけた何人かの男が彼女に近づいてきた。彼女はうまくあしらいながら、辺りをキョロキョロしながら歩いていた。
 キアーラは戸惑っていた。確かにパオラには、仮面を被ると人間性も変わり大胆になれるから楽しんで、とは言った。でも人はここまで変われるものだろうか?それが謝肉祭?確かに私もこんなに大胆になっていたのだ・・・