パオラの手紙(1)


(どれどれ)
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 キアーラにとっては昔の話だった。だが辛い回想だった。その辛さが、傍らのアンナには痛いほどよくわかった。本当に仲のいい二人だ。そんな残酷な過去があったなんて、アンナはキアーラの心中を察した。なぜならキアーラは、17年もの間恋人だったアントニオを失ったその時、妹のように愛していたパオラに拭い切れない不信感を抱いてしまったのだから。キアーラにとって、それを思い出すのも辛いだろう。
 アンナは、キアーラの衣装を着てアントニオに会ったのが誰だったのか、直感ながらわかった。でもアンナの興味は既に、それが誰か?ではなく、どうしてか?だった。
 アンナは、はやる気持ちを抑えてキアーラに、その後を訊ねた。
「それでキャラは、パオラとどうして仲直りができたの?」
「それはパオが手紙をくれたの。そんな事があって3日後だった。ノックする音がしたので、私はドアを開けたの。そこにパオが立っていた。彼女は神妙な顔をしていた。その両手には、謝肉祭用の私の衣装が綺麗にたたまれて大事にのせられていたわ。パオはそれを私に捧げるように頭を垂れながら差し出したの。まるで貴族が皇帝に宝物を献上するようによ。私は少し笑ったけど、パオは真面目だった。私がそれを両手で受け取ると、彼女は深々と頭を下げて帰っていったわ。パオらしいでしょう。
 部屋でその衣装を点検していたら、マントとヴェールの間に手紙が挟まっていたの。これもパオラらしいわ。彼女は、私がまだ気分を害していないか気を遣っていたのね。きっと苦肉の策で手紙を挟んだのよ。」
「その手紙には何が書かれていたの?」
アンナが訊くと、キアーラは今晩その手紙を見せるから部屋へ来るように言った。
 
 その日の夜、アンナはキアーラの部屋を訪れた。キアーラは既にパオラの手紙を用意していた。そして言った。
「アン、これがその手紙よ。
 これは私の宝物よ。もちろんいい思い出ではないけれど、この中には私の半生のいろいろな思いが代弁されているわ。これを読むと私は謙虚になれるの。さあどうぞ。」
 アンナはキアーラから手紙を受け取った。そしてゆっくりと広げて静かに目を通した。