パオラの裏切り?(1)


(なんでお前の方がベットなんだよ〜ライ)
 アントニオが結婚して4年が経った。キアーラは27歳になっていた。キアーラは、パオラが時々アントニオに会っていたのを知っていた。パオラは、キアーラがアントニオが結婚すると知って泣いた時、一生懸命にアントニオを捜して彼と話をしたのだった。その後もパオラが彼と会っていたとしても不思議はなかった。実際キアーラは何度かパオラの後をつけてみた。予感通りパオラはアントニオに会っていた。だがパオラは、彼と一時間ばかり話をしたらすぐにピエタへ戻った。パオラはまだ13歳だった。男性の話し相手がいてもいいではないか。その頃のキアーラは、そう思いながらパオラを温かく見守っていた。
 あれから4年経ちパオラも17歳になっていた。自分だったらアントニオと、とっくに親密な大人の関係になっていた歳だった。キアーラが、パオラが時々彼と会っている事実と、謝肉祭という誰もが身分を忘れて恋人と情愛を謳歌できる祭りが、自分の中で初めて重なった。それからだった。キアーラはパオラの屈託のない明るい性格に、(なぜ、そんなに楽しいの?)という疑念が芽生えた。その感情が次第に増幅されるにつれ、自己嫌悪も大きくなった。そんなキアーラの精神は、演奏でも徐々に負の影響を受けていった。普段ミスする事のない音を簡単に間違えたり、楽譜を見ずに演奏するという完璧な暗譜力を誇っていたキアーラが、時々旋律を失念しては弓を止めていた。もちろんそれは練習の時だけとはいえ、さすがにピエタの多くの人が、彼女の事を心配した。その中には当然パオラもいたが、そのパオラの気持ちをキアーラは素直に受け入れらけられる余裕などなかった。