パオラの裏切り?(5)


(謝肉祭は右も左も大賑わい)
 気がつくと国営造船所にいた。
 アントニオは昔ここで働いていた。彼はいつも歌っていたので、どこにいるのかすぐにわかった。キアーラにとって彼の声はまるで愛の天使の歌声に感じたものだ。
 キアーラはその造船所に立っていた。街中が謝肉祭で浮かれていても、ここの人たちは日常と変わりなく働いていた。ここの船だけは昔と変わらなかった。この船はどのような運命をたどるのだろうか?それでも多くの人がこの船を造り上げ、やがて多くの人を乗せて航海する。この船がどのような運命に翻弄されようとも、多くの人が関わる事に変わりはない。
 キアーラは、自分の全てを表現できる音楽を愛していた。ヴァイオリンが好きで好きでたまらなかった。それに自分には愛するプレーテ・ロッソやピエタの仲間がいた。また自分を愛してくれる多くの聴衆がいた。自分は幸せ者だとキアーラは感じていた。それでも一つだけ逃げてはいけない事があった。逃げてしまうとキアーラ自身が、愛するアントニオの背信に一生苦しまなければならなくなる。今日のアントニオの背信は事実として受け止められても、もう1つの背信はどうしても許す事ができなかった。
 キアーラはパオラを訪ねる決心をした。