第一幕第二場(5)


(毎回のタイトルに乱れがありました。
     謹んでお詫びもうしあげます。)
 私は赤ハリ先生が常日頃から言っていた事を思い出していた。
『人前で演奏するって事は緊張する者なのですよ。でも緊張する事とアガル事は違うのです。緊張はした方がいい。演奏に集中力が増してくる。だが練習不足だとアガッてしまいますよ。だから変なアガリかたをしないようにしっかりと練習をしておきなさい。』
 その先生がアガルようになったという。何故?と思っていたその時、神杉静江さんが言った。
「その時にわたくしは先生に訊いたのです。
 『先生がアガられる事なんてあるのですか?』ってね。すると先生は、
 『ええ、私自身がそんな自分にビックリしたのですよ。そして私は演奏している自分に自信が持てなくなったのです。どれだけ練習しても、自信を持って演奏できなくなってしまいました。おそらく生活への不安がそのような感情を起こさせ、その感情を制御する術を持てなくなったのでしょう。だから演奏活動も辞めようと思っています。』と、わたくしに言われました。」
「だけど、どうして転職が居酒屋なの?」
みんなが思っていた事をタア子が訊いた。
 神杉静江さんは静かに答えた。
「わたくしもそれを伺いましたの。すると先生は、  『いろいろと考えた末の結論です。神杉さんをはじ め皆さんには本当に申し訳ありませんでした。』と しか言ってもらえませんでしたわ。」