第一幕第一場(7)

 私とタア子は友達でもなんでもない。(彼女はどう思っているかわからないが)彼女とは赤ハリ先生のピアノ教室で一緒だっただけなのだ。と言っても、赤ハリ先生のピアノ教室はグループ・レッスンではない。年1回開催される赤ハリ先生こと斎藤ピアノ教室主催の発表会で、3年前初めてタア子と出会ったのだった。
 私は東京育ちだったので、幼い頃から赤ハリ先生の教室に通っていた。大学1年生の時の発表会で初めてタア子に会って彼女の演奏を聴いた。
 彼女が弾いた曲は、シューマンの交響的練習曲だった、と確か記憶している。シューマンはこの曲を一生懸命に練習して指を壊してピアニストの道を諦めた。と、赤ハリ先生から聞いた事があったが、タア子のその時の演奏は、まさしく指を壊したシューマンが風邪をひき極度の体調不良に見舞われながら弾いたら、こんな演奏になったであろう・・・と想像してしまうような迷演奏だった。