第一幕第一場(2)

 ある日の夕方だった。私とタア子が大学からの帰り道に公園のベンチへ座っておしゃべりをしていた。
 タア子が突然に薄暮のうっすらと見える月を指さして言った。
「ねえ、あそこに見えるのは月よねえ?」
「ええ、月よ。」
「太陽と月って同じじゃあないよねえ?」
「当たり前じゃない。」
「昼は太陽で、夜になったら月になるんじゃないよねえ?」
「・・・・・・」
 私は背中の方向にある朱に染まった太陽を指さしてタア子に言ってやった。
「太陽はあそこにあるでしょう!ん?」
「あっ、そうか・・・太陽と月はやっぱり違うんだ・・・」
「・・・(こいつ、本当にバカか!?)・・・」
 それ以来、私は彼女の事をタア子と呼んでいる。本当は、間抜けた女という意味で、タカコから一字抜いて『タコ』にしたかった。(今は心の中でそう呼んでいる。)だが、それでは気の毒なので、TAKAKOからKだけを抜いてやった。それでタア子だ。感謝して欲しいくらいだ。だって昨日わかったのだけど、こいつ(つまりタコ・・じゃない・・・タア子)、瀬戸内海の瀬戸と瀬戸焼きの瀬戸が同じだと思っていた。もっとも、昨日は面倒臭かったので訂正してやらなかった。これも安藤家のDNAとして代々、スキ焼きのという名の肉じゃがと共に確実に受け継がれていくのだろう。