第一幕第三場(2)

 そのタア子の性格を忘れていた私はバカだった。
 タア子は赤ハリ先生に対して無礼にも、
「赤ハリは音楽しかやった事がないんでしょう?どうして居酒屋をするという発想になるのかなあ?」などと悪態をついている。私はおもわず助け舟を出した。
「だけど忘年会では、毎年赤ハリ先生の手作りケーキをご馳走になっているじゃないの。いつもとてもおいしいわよ。」
 そうなのだ。毎年大晦日の前日に赤ハリ先生のお宅に集まって忘年会をするのだ。そこではみんなワイワイと騒いで・・・と言いたいところだけど、その忘年会は正確に言うと『亡年弾き納め会』と称され、10畳分の広さはあろうレッスン室にみんなが集まって、ミニ発表会なるものを行なっていた。で、その後はそのまま打ち上げでワイワイと・・・と今度こそ言いたいところだが、発表会の後はお茶会になる。その上品な雰囲気は、第一回赤ハリプロジェクトの会議とそう変わらない。
 タア子は重ねて失礼にも赤ハリ先生に対して、
「あれ本当に赤ハリの手作りなの?ひょっとして奥さんが『あなたが作った事にして出しなさい。』とかなんとか言われて嬉しげに出してたんじゃないの?」
と、とんでもない事を言った。
赤ハリ先生はタア子に向かって・・・黙って肯いた。
(ほっ、本当だったのかよ!)
 結局、私の助け舟はタコによって沈没した。