赤ハリプロジェクト始動開始

 第一幕第三場 赤ハリプロジェクト始動開始
 翌日さっそく、私とタア子は赤ハリ先生のお宅へ押しかけた。
 玄関から中へ入ると、いつもながら最初に出迎えてくれたのはヨハネスだった。彼は熱烈大歓迎というような嬉しそうな顔をして飛びかかるように私の肩を抱いてくれた。私の頭の上に彼の顔があった。彼を苦手とするタア子は、そんな私達の様子を玄関の隅から戦々恐々として見ている。
「さあさあ、もういいだろうヨハネス!こっちへおいで。」
赤ハリ先生がそう言いながら来た。ヨハネスは赤ハリ先生の傍らに行き、こっちの様子を見ていた。ヨハネスは確かスイス原産の大型犬でスイスの首都ベルンの名前が付いていた。その愛嬌のある顔と性格が私は大好きだったが、50キロは超えるであろうその巨体がタア子には怖いらしい。
「赤ハリ先生、お忙しい中申し訳ありませんが、どうしても会っておきたくて来ました。」
「それは一向に構わないが、要件は何ですか?」
「私達大人のお弟子さん一同で、赤ハリプロジェクトを発足しました。」
「赤ハリプロジェクト?・・・何だね、それ?」
「先生の加齢なる転身を、私達が側面から支援しようというプロジェクトです。」
 私の話に先生は苦笑した。饒舌なタア子が黙っているこの状況こそ、私達の関係を如実に物語っていた。私と赤ハリ先生との付き合いはもう17年にもなる。一方タア子と先生の付き合いは、まだ4年目に入ったばかりだ。だが、これからがタア子の本領発揮だったのだ。
「ねえ赤ハリはさあ、居酒屋をやるって言ってるけど料理店で修業した事あるの?」
 いきなり先生にタメ口だ。そうだった、私はタア子の凄さを忘れかけていた・・・今、タア子と先生の会話を聞きながら思い出した。
 あれは2年前だった。私はタア子と有名な外来のピアニストの演奏会へ出かけた時だった。そこで静岡からわざわざ東京まで聴きに来たという女子大学生と話が盛り上がった。
 その一週間後、タア子はその女子大学生に会いに静岡へ遊びに行くと言う。しかも彼女の所へ泊めてもらうと言う。私はタア子に、
『一週間で、もうそんなに仲良しになったんだ。」と言うと、タア子はこう言い切った。
「何言ってるのよ。同じピアノをしているというだけでもう友達でしょう。ましてや一回会えば親友じゃない。」私はそんなタア子に恐れ入った。