第一幕第一場(5)

 私はタア子に嘘をついた。私が携帯を見ないというのは本当だ。でも家に置いてきたというのは嘘で、きっと赤ハリ先生は私にもメールを送信している筈だと思った。
 タア子と別れた私は、すぐ近くの洒落た喫茶店に急いで入った。
 エルメスのトートバックから携帯を取り出して見ると、やはり受信のランプが点滅していた。開いて見ると、思ったとおり赤ハリ先生からメールが届いていた。
『突然ですが私はピアニスト及びピアノ教師を廃業します。これからは居酒屋を始めます。多忙になると思います。ですからいろいろな雑音を私の耳に入れないでください。
 尚、弟子である諸君に関しては、真摯に今後の相談にのりますので、遠慮なく、但し要領よく手短めにいつでも連絡ください。他者には、私が加齢なる転身をした、とでも言っておいてもらいたい。ハハハ 
斎藤より』