第一幕第四場(10)

 私達は最後にノブタの店に行った。別にノブタが経営している訳ではないし、そのお店には『酔い候』という立派な名前があった。が、ノブタに紹介されたら最後、このお店は今晩からは私達の間で永遠に居酒屋『野豚の店』になったのだった。
 私達がその『野豚の店』に入ると既にノブタがカウンターに座っていた。ノブタは私達を見つけると、本当の店主に何やら言葉を交わし、一つしかない四人掛けの座敷席へ移り私達を誘った。ノブタはさすがにバツが悪かったのか、先のお店で出会った件の言い訳から始まった。『万吉』という店は、同伴という夜の女性を伴った男性客によって成り立っている店で、言い換えれば、男性客を連れてくる夜の女性達によって成り立っているのだ、とノブタは言った。
 私は、それにしては食事が不味いのではないか、そのような女性達なら寿司とか割烹などの高級なお店に
行きたいのではないか?とノブタに訊いた。
 するとノブタは興味をそそられる様な話をしてくれた。
「そのようないい店に行けるのはママさんか人気の売れっ娘達だよ。そこまで人気のない女性は、小銭を稼げる店に男を連れて来るんだよ。」
「小銭・・・?」私は理解できなかったがタア子は違った。
「あ〜っ、私わかったわ。」
(さすがだ。このタコは一体どんな環境で育ったのだろうか・・・)
バックマージンね。」(バックマージン・・・何それ?)
「さすが経済学部の多賀子さんだ。そうなんだ、彼女達はあの店に男を連れて行くと、飲食代の何割かが、あの店から現金で戻ってくるシステムになっている。
だからあの店は深夜遅くになると夜の女が一人で飲みに来るんだ。そして帰りはお勘定として自分が払わずに店から封筒を貰って帰っていく。そんな店なんだよ、あの『万吉』は。」