第二幕第一場(3)

 空気の読めない無邪気な赤ハリ先生は、「ほう、ありがとうございます。拝見させていただきます。」と言ってから、ほうほう言いながら物件の載ったページをめくっている。イベリコは赤ハリ先生に、
「何かお気に召した物件がありましたか?」と事務的な応対で訊いた。赤ハリ先生は、「う〜ん」とだけ言って答えないので、イベリコは、
「あの、ご予算はおいくら位で考えていらっしゃいますか?」と訊いた。赤ハリ先生は、
「相場がわからないから予算を決めていないのだけどねえ・・・こうして見ると結構値段が張るものなのですねえ。」と言った。
「そうですね、バーカウンター6席程度の規模で10万円は出さないと難しいでしょうね。8席から10席で15万円、それにテーブルが付くと20万円からの相場です。
 それが居酒屋になると、今度は建物の状態でピンキリになります。状態というのは、その建物が新しいか古いかです。あとビルのテナントだと、一階にあるか二階かで結構値段が変わります。
 如何でしょう、いくつかの物件を決めて頂いて、私が現地にご案内しましょう。実際に見て頂いた方がよろしいかと思います。そちらのお連れ様も一緒に行かれますか?」
 私は『そちらのお連れ様』というイベリコの言葉に刺を感じたが仕方がない。無邪気なお坊ちゃまの放言をそのまま放置していた私達が悪かったのだ。
「勿論ご一緒させて頂きますわ。」と、きっぱりと言ったのはタア子だった。