第一幕第四場(2)

 最初のお店は、全国にチェーン展開しているリーズナブルな人気店『食の民の家』だった。さすが人気店だけあって、まだ5時半なのに入り口には人がたくさんいた。赤ハリ先生はそこをズカズカと通って奥へ入っていった。それをタア子が追いかけて言った。
「おいおい、どこへ行くの?赤ハリ!」
「いや、席が空いていないか探しに。」
「駄目でしょう、順番があるんだから。入り口でカードに名前を書いて待たないといけないの。」
「え〜、待ってまで飲みたくないなあ。別のお店にしませんか?」
「赤ハリ!今日は飲みに来たんじゃないのよ。視察でしょ。ここへ座って待ってなさい!」
 私はタア子がしっかり者の奥さんのように思えてきた。
 20分程待って席に着いた私達がメニューを見ていると、赤ハリが、
「とにかくまず生ビールを飲みましょう。」なんて暢気な事を言っている。
 私が苦言を申す寸前にタア子が怒鳴った。
「赤ハリは注文しなくてもいいからメニューを見るの。どんな料理があるのか、その料理がいくらなのか?しっかり見ておくのよ。」
 実は私もこんな大衆的な居酒屋へは行った事がなかった。お店の中へ入るなり、とにかくこの騒々しさに驚いた。中の客達はしゃべっているのではない。叫んでいるのだ。そしてメニューを見て料理の安さにも驚いた。ここでは私は口を出さないで、タア子にお任せするに限る。
「ねえ赤ハリ、食べたい物があったら言って!いっぺんに頼むわよ。」
「ゆっくり一品ずつ頼めばいいじゃないですか。」
「こういう店は、一品ずつ頼むと時間がかかるの。だから一度にたくさん頼んだ方がいいの。」
「では君達にお任せするよ。私は食べられない物はないから。」
「わかったわ。今日は視察だから少なめに注文するけど、赤ハリはメニューの隅々までしっかりと見ておくのよ。」