第一幕第四場(3)

 飲み物と付け出しがきてから私達は乾杯した。そして、タア子の講義が始まった。
「例えば、この酢ダコだけど280円するの。ねえ、赤ハリはこの酢ダコに使われているタコの原価はいくらだと思う?」
「う〜ん、200円位ですかねえ・・・」
「ねえ赤ハリ、そんなタコ使っていたら儲け無くなるよ。だってワカメもいるし調理するのに光熱費がかかるのよ。あと人件費や広告費などもかかっているのよ。」
「人件費や広告費が料理に関係あるのかい?」
「全ての経費が料理の一品一品の値段に反映されているの。それが商売ってものなのよ。
 いい赤ハリ、例えばこの酢ダコのタコだけど、足2本約200円で売られているモロッコ産のタコを使ったとして、この酢ダコだったら足1本で5人分とれるとして一皿20円よ。それにワカメや酢やだし汁など合わせて原価40円ってとこね。それをこの店では7倍の280円で出しているの。でもこれが北海道のタコだったら足2本で500円位だから原価が70円になる。原価に対して売値が4倍って事よ。だからこの店が外国産の安いタコを使っているとしたら、とても上手く商売をしていると思うわ。これがもし足2本で800円もする明石のタコだったら、そんな店は当然ワカメも酢も出汁もいい物を使うので、タコ酢といえども売値で500円はするの。美味しいから高いのではなく食材がいいから高いの。そして食材がいいから美味しいのよ。
 赤ハリはどんな物を作りたいのか?そしてそれだけでなく、どんな食材を使って料理をするのかを考えないとね。」
 私はタア子に感心してしまった。月と太陽の違いがわからないタア子が、今私達を前にしてモロッコと明石のタコの違いを話しているのだ。
「だから赤ハリ、原価を考えながらメニューを見るのよ。そして食べてみて、その値段程の価値があるかどうか味わってみるの。」
 私はもっとタア子の演説を聞きたかったが、周りが騒々しくて話が聞きとりにくいからと、私達は次の居酒屋へ向かった。