第二幕第一場(5)

その三日後の日曜日、突然に赤ハリ先生から、今から自宅へ来るようにとのメールがきた。全く迷惑な話だ。あの歳を喰ったお坊ちゃまは、年頃の娘が日曜日をいつでも暇にしているとでも思っているのだろうか、と憤慨していたところへタア子から電話があった。そうなのだ、もう一人日曜日を暇にしていた娘がいたのだった。
 私はタア子と一緒に赤ハリ先生のお宅へ行くと、いつものように熊のような大型犬がシッポを振りながらヨーロッパの挨拶のように抱擁してくれた。タア子がその様子をドアの陰から恐々と見ていたのもいつもの光景であった。そこへ娘の黄色い声がした。「ヨハネス〜、こっちへおいで!」ヨハネスはハッハッと腹筋で呼吸しながら嬉しそうにシッポを激しく振りながら奥へ引っ込んだ。と同時に赤ハリ先生の、「レッスン室へ来てくださ〜い。」との大きな声が聞こえた。
 タア子は玄関で靴を脱ぎながら私に訊いた。
「赤ハリって、娘がいたっけ?」
 私は首を横に振りながら、「高校生の息子さんが一人だけよ。」と言った。
 私達がレッスン室に入ると、赤ハリ先生がその娘を紹介した。
「この娘は私の弟子の池野響ちゃんで現在高校三年生で、音大志望の受験生です。で、君達をわざわざ呼び出してこの娘を紹介したのには訳があるのです。」