第一幕第四場(6)

 3軒目のお店は、赤ハリ先生が始めようとしている形態の居酒屋で、実はこのお店を選ぶのが一番苦労した。だって当の赤ハリ先生、どんなお店にしたいのか自分でもまだ具体的にわかっていないみたいなのだ。だから私は、男性が一人で切り盛りしているような小さな居酒屋を、インターネットで調べて決めた。
 そのお店の名前は『万吉』。いかにも男性が仲間と入る居酒屋といった様な大きな赤提灯が一つ、風に揺れている。私とタア子だけだったら絶対に入れなかっただろう。
 私達は赤ハリ先生を楯にしてその店に入るや否や、大変驚いて顔を見合わせた。何故ならそのお店、私達の予想に反して華やいでいたのだ。別にオカマがたくさんいた訳ではない。若い女性や若ぶりな女性がおじさん達と一緒に飲食していたのだ。別に合コンをしていたのではない。女性達はそれぞれにおじさんとペアになって二人で飲食していたのだ。しかし、どう見ても恋人達という雰囲気ではなく、派手な格好をした若い女性がこんなお店にいる事自体に違和感があった。
 タア子は私に耳打ちをした。
「同伴ってやつよ。」
「ドウハン?」
「もう〜、ブラマンは何も知らないんだから。どこまでお嬢さんなの。」
 私がお嬢さんなのは素直に認めよう。私の隣には歳を喰ったお坊ちゃまも不可思議な顔をして立っていた。