第一幕第四場(5)

 タア子の楽しい講義はまだまだ続いた。
「例えばカシスオレンジに使うオレンジジュースだけど、赤ハリは普段いくらのオレンジジュースを買うの?」
「さあ、奥さんが買うのでわかりませんが、瓶に入ったジュースです。外出先だとコンビニで150円のペットボトルを買いますけどね。」
「ペットボトルだと150mlね。でもスーパーやドラッグストアでは1パック1lが130円で売られているわ。だからカシスオレンジもどんなオレンジジュースを使うかによって原価が全然変わってくるのよ。1杯200mlのオレンジジュースを使ったとして、赤ハリがコンビニで買うオレンジジュースだと60円、スーパーの安いやつだと26円よ。その差34円。10杯で340円の違いになるわ。それにカシス・リキュールをどんなものにするかでまた原価が変わってくる。この店のようにいいオレンジジュースといいカシス・リキュールを原価100円位ってとこね。ましてや安いジュースに安いリキュールだと原価は50円もしないわ。それを400円とか500円のカクテルとして売っているのよ。どちらにしても凄い利益率でしょう?瓶ビールだと誰が買っても同じような値段だし居酒屋での売値もそんなに変わらない。だけどジュースはピンからキリまであるの。どんなものを出すかによって利益の差は大きいのよ。恐るべきソフトドリンクだし、もっと恐るべきはカクテルよ。」
 私はタア子が経済学部にいる事を始めて納得した。まさに恐るべきタア子だ。だから私が自宅で一本500円もするオレンジジュースを飲んでいるとは口が滑っても言えなかった。