第二幕第一場 店舗探し

 第二幕 第一場 店舗探し
 私とタア子は赤ハリ先生と一緒にある不動産屋に来ていた。
「マンションやアパートの賃貸物件と違って、店舗の賃貸物件はリスクが大きいから、素人では不動産屋が信用してくれなくて相手にされないかもしれないし、変な物件を掴まされるかもしれないから」と、ノブタがそう言って紹介してくれた不動産屋だった。
 平日の昼間というこの時間に融通を付けられるのは、大学生でしかも四年生の私達しかいなかった。オロチも大学の四年生だったが就職活動と部活動で忙しいらしい。因みに彼はオーケストラ部でヴァイオリンを弾いているそうだ。タア子は大学院へ進むから暇らしい。その理屈が私には今でも理解できない。で、私はというと・・・将来を思案中だ。という事で、私とタア子が赤ハリ先生に付き添っているという訳だ。尤も、学生アパートを探すのに親が付き添って一緒に不動産屋を出入りする新入生達の様子を見て如何なものかと思っていた私が、いい歳をしたあっさんの付き添いを何故しなくてはならないのかが私自身全くできない。だがタア子はそんな小難しい事は考えない(考えられない?)タイプなのだろう。何をしていても楽しそうだった。私はその楽しそうなタア子に渋々付き合ってやっているのだった。
 不動産屋内のカウンターを前にして横に並んで座っている私達の所へ、一人の女性がやって来て私達それぞれに名刺を差し出し、「斎藤様の事は信田様から伺っております。私がお客様の担当をさせて頂く伊部と申します。よろしくお願いします。」と自己紹介をして頭を下げた。
 名刺を受取った私達はそれを見て・・・『伊部理子』・・・イベリコ!?
 私は思わず、真ん中に座っている赤ハリ先生越しにタア子を見た。タア子も可笑しさを噛み殺したような顔をしてこっちを見ていた。(まさかノブタがイベリコを紹介するとは・・・)
「はあ、何か?」イベリコが不可思議な顔をして私達を見ながら訊いた。
 私とタア子は「いえ」と言って俯いた。
「これはサトコと読むのですかね。こちらこそよろしくお願いします。」と赤ハリ先生が名刺を見ながらそう言うと、俯いていた私達は更に深々と頭を下げた。