ビギナーズが終わった日(1)

 俺が入院して12回の出席義務があったビギナーズ(初心者)ミーティングが

やっと終わったのは入院して約1ヶ月経った頃だった。日曜日以外の毎日行われる

このミーティングは通常なら2週間で終える。なのに1ヶ月も掛かってしまったの

は、別に俺が不真面目な患者だったからではない。むしろ好奇心溢れる俺にとって

この病院での生活は、決して居心地のいい所ではないものの、未知なる別世界へ足

を踏み入れたような感覚で、何事にも前向きに取り組んでいたつもりだ。そのこと

自体が不真面目だと思われていたのなら話は別だが、そうではなかったのだ。俺の

ビギナーズ・ミーティングの終了が遅くなったのはインフルエンザが院内で大流行

して約2週間院内の活動が全くなかったからだ。その間診察も行われず、一日中何

もしないで過ごしていたのだった。病気で、しかも大病を患って入院したのに診察

がないという大きな矛盾を自分の中でまだ感じてはいたが、それ以上に精神病院と

いう別世界で過ごしている今を受け入れるので精一杯だった。

 インフルエンザは収束に向かい、本来の院内生活が戻ってきたらしく(俺はその

 本来を知らなかったが)ビギナーズ・ミーティングもなんとか終えたのだった。

これでわずか15分程度だが朝の散歩で外に出ることができる。それが俺にはこの

上なく嬉しかった。

 翌朝意気込んでみんなと一緒に外へ出ようとした俺を呼び止める声がした。

「ヤマダさんは、名簿に名前が載っていないから外に出られないですよ。」え~、

なぜなんだ~?!戸惑う俺を尻目にみんなニコニコして階段の方へ向かっていた。