俺は本当に肝硬変?(4)
外はすっかり明るくなり、院内もざわざわと次第に賑やかになってきた。
俺は朝食を食べ終え、看護師たちが忙しくなる朝の検温、投薬等を済ませた頃を
見計らって、俺の担当看護師を見つけ、先生に相談したいことがある旨を伝えた。
それまでの時間の何と長く感じたことか。まるで恋人に会う前の待ち遠しさと同様
の時間経過だったが、その相手は同じ女性でも恋人とは天と地ほど違う。まるで美
しい月の下で泥沼にいるスッポンを捕らえるようなものだった。本来の待ち遠しい
相手は主治医であった。だが先生に相談したいとスッポンに伝えてからは、その待
ち遠しい相手に会うのが怖くなってきた。まるで嫌われるかもしれないと思いなが
ら憬れの女性を待ち伏せているような感覚に近かった。しかも院内のスッポンはな
かなか仕事ができるようで、すぐに俺の主治医がニコニコしながら「ヤマダさん、
どうしましたか?」と部屋に入ってきた。主治医に会って自分の感じている疑念
を単刀直入に言おうと思っていたが、いざ口から出た言葉は切れ味鋭い単刀ではな
くフニャフニャしたシリコン製のしゃもじののようだった。俺はそれでメシトルど
ころか杓子定規な言葉でしか先生と話せなかった。
「先生訊辛いのですが、俺肝硬変ですよねえ?もう1ヶ月近く経っても投薬ばかり
で先生の診察はほとんどないし、少しは恢復に向かっているのですかねえ。もち
ろん先生を信用していますが、あまり治療らしいことが行われてないような気が
するのですが・・・」と、弱気な言葉しか出てこない。これでは憬れの女性から
は見放されるのだろうが、先生は毅然として俺に言った。
「ヤマダさん、心配なのは無理もありませんが、毎週の血液検査の数値は素晴らし
く改善してきています。本来はまだベッドで横になっていてもおかしくない状態
だったのですよ。もちろんヤマダさんが頑張ってこられたから良くなっていると
思います。だからもう少し身体を労ってやるつもりで休養してくださいよ。私も
やまださんに効果のある薬を勉強しています。私は肝臓の専門医ではありません
が、専門医以上に多くの患者の肝臓を診てきていると自負しています。ヤマダさ
ん、もう少し一緒に頑張りましょう。」
憬れの女性から一緒に頑張ろうと言われれば俺は当然頑張る。それを主治医から
言われたから・・・単刀直入ならぬ単純直情な俺は、主治医を信じてついていく決
心をした。
*これはフィクションです