俺は本当に肝硬変?(3)

 明けの明星が輝きだした頃、闇夜がしだいにゆっくりゆっくり白々と明るくなっ

てきた。部屋の窓が東向きにあり俺のベッドがその窓側にあったことを感謝した。

起床の6時までまだ1時間ちょっとある。俺はこのまま窓の外の暁を見ておきたかっ

たが、同室のみんなに迷惑を掛けてはいけないので、そっとカーテンを閉め、静か

に仰向きになった。その時だった。ガサガサと無遠慮な音が響いた。それがデブで

あるのはカーテンが開く音の方向と足音でわかった。俺はトイレにでも行くのだろ

うと思った瞬間、部屋の静寂を切り裂く音にビックリした。デブは部屋に1つある

小さな洗面台で顔を洗いだしたのだ。しかも無神経な程の大音響でバシャバシャと

何度も洗っている。立派な洗面所がトイレの隣にあるにもかかわらずにだ。さすが

の俺も黙ってはいられなかった。起き上がってデブの立っている所へ行って耳元で

強い口調で囁いた。「みんなまだ寝ているんだし、起床まで時間があるのだから、

 もう少し遠慮して静かに洗ったらどうですか。」するとデブは「なあに、どうせ

 みんな起きるのだから同じ事だ。」と、意に介さず何度もバシャバシャと音をさ

せてフウ~と言いながらタオルで顔を拭いていた。これがデブ本来の性格なのか、

アルコールの後遺症なのか、病院生活のストレスからなのかわからないが、周りの

みんなもよく我慢しているものだと感心した。否、我慢できないで注意した俺の方

がおかしいのかもしれない。実際にこの病院の連中はよく自虐的に「どうせ自分た

 ちはアル中だから世間からみたら非常識なんだ。」と口にする。俺はそこまで自

分を卑下したくない。だが、デブではないが、これから俺は何をやっても、特に変

な事をするとアル中だからだと思われてしまうのだろうか。変なヤツという言葉が

褒め言葉だと思って生きてきた俺にとって、変なのはアル中だからだと思われてし

まうのは屈辱的だった。だって俺はただの肝硬変なのだから・・・では、なぜ俺は

精神病院に入院しているのだろう。そして俺の主治医は間違いなく精神科の医者な

のだ。俺は早く主治医である先生に会いたくなった。

 

     これはフィクションです