カーテンコール(1)

 オペラやオペレッタの醍醐味は、終焉後の華やかなるカーテンコールにある。場内の熱気ある拍手の中で出演者達が舞台に再び現れて、観客に挨拶をする所謂オペラやオペレッタの慣習だ。その様式は各オペラハウスや演目によって若干異なるが、最近は・・・
 緞帳が左右にパッと開いた。そこには登場人物達が横一列に並んでいた。一同観客席に向かって深々と礼をした。それを二度三度と繰り返した。そして緞帳が閉まった。
 これでカーテンコールが終わる場合もある。勿論拍手が無くなれば当然これで終わりだろう。だが今晩の公演は好評だったと、鳴り止まない拍手が物語っていた。ただその拍手は熱狂的なというより、別のカーテンコールを期待しているような惰性的な拍手だった。だとしたら、次は端役、脇役から順番に出てくるのが最近のカーテンコールの流行りだが・・・
 案の定、左右に閉じられた緞帳の隙間から男女の二人が出てきた。二人は手を取り合って観客席に向かって丁寧にお辞儀をした。
(あれは・・・ええと・・・二人の不動産屋だ。イベリコとイノシシ、そう猪木だったかな。)
 二人が引っ込むと同時に出てきたのは権藤さんだった。
(イルカさんかあ・・・第四幕で頑張って歌っていたのにあまり拍手が盛り上がらないなあ・・・) 
 権藤さんが引っ込んで、次に出てきたのはタメ池こと池野響だった。一段と拍手が大きくなった。彼女はその拍手に応えて、観客に向かって何度も笑顔と手を振り撒いた。
(可愛らしい歌手だったからなあ。歌もまあまあ上手だったし、美味しい所を取っていった感があるな。)
 投げキッスまでして去ったタメ池に代わって山多君が出てきた。華やかなカーテンコールを演出していた拍手は、山多君の登場で少し弱くなった。
(オロチ君役には気の毒だが、タメ池役の娘の後ではなあ・・・拍手もこんなものだろう。あいつ、もうちょっと自分を美化できなかったのか。)
 そのせいでもないのだろうが、山多君はお辞儀すると足早に引っ込んだ。