カーテンコール(3)

 赤ハリ先生は元の位置に戻ると、更にビックリするようなパフォーマンスをした。彼は舞台の下手左側に向きを変えると、両手を左右大きく広げた。今度はその両手を頭上高くに挙げた。すると舞台下手袖から大きな犬が赤ハリ先生役の歌手の許へ駆け寄った。当然会場はどよめきと笑いに包まれた。
「ハハハ、あいつだよ〜、ええとヨハネスだったな。あれは何という犬種なのかい?」
「あれは、バーニーズ・マウンテンドッグというスイス原産の犬よ。あなたもあの犬が気に入ったのなら、いい加減に犬種ぐらい覚えなさい。」
 赤ハリ先生はヨハネスを従えて観客席に向かって深々とお辞儀した。その間ヨハネスはヘラヘラしながらキョロキョロしていた。鳴りやまないブラボーの声を背に二人?は仲良くカーテン奥へ隠れた。
 そして次にタア子役の小柄なメゾ・ソプラノ歌手が満面の笑みで登場した。ブラボーの声は増して多くなった。その歓声にタア子は手を振りながら応えた。役柄のように軽快な動作で何度もお辞儀をし、何度も観客席に向かって手を振り、何度も投げキッスをした。
「お前の役作りもよくできていたよなあ。まるでお前を見ているようだったよ。」
「うるさいわね。私は面白くないわ。あいつをとっちめてやらなきゃ。」
 そこへブラマン役のソプラノ歌手が登場した。ブラマンはタア子の手を取りながら二人で深々とお辞儀した。場内は温かな拍手に包まれた。
「そうかあ、ブラマンは一人でカーテンコールを受けないんだ。これも演出かなあ?」
「うるさいわね。黙って観ていられないの。あとであいつに訊いてみたらいいじゃない。」
 二人が最後にお辞儀をした瞬間、緞帳が勢いよく左右に開いた。