院内の年寄りたち(5)
数日経って、隣の席で食事をしているおじいちゃんも入院生活に少しは慣れてき
たようで、少しずつ食べ物も喉を通るようになったようだった。その頃の俺も入院
生活に慣れ、いろいろと耳にし口を利くようになっていた。俺はおじいちゃんに、
「少しは食べられるようになって良かったね。これでまた元気になれるよ。」と優
しく声を掛けたつもりだった。ところがこれがおじいちゃんの収束に向かっていた
負のエネルギーに火を注いでしまった。「うるさい!人のことはほっとけ。オレに
意見をするな!」と怒鳴られた。俺は「そう・・」と無表情を装って席を立った。
俺は決して社交的なではないが、挨拶ぐらいは普通にできると思っている。だが
こっちが挨拶をしても反応がないか無視されたら、俺も良心的に無視するようにし
ている。つまり相手は話し掛けられるのが嫌なのだと解釈して、それ以後は空気の
ようにその相手と接する。そんな輩が院内に2,3人はいた。入院前の日課だった
早朝の犬の散歩の時よりは空気になってしまった輩ははるかに少ない。で、前出の
おじいちゃん、このまま俺にとって空気のような存在になってしまうのかと思いき
や、その後なぜか**さん、ヤマちゃんと呼びあう仲になったのだった。だが、そ
んな仲になって、そのおじいちゃんに癌が見つかって退院していった。病気になっ
て病院を 出ていったのだ。笑い事ではない。だってここは精神病院なのだから。
だとしたら肝硬変で入院している俺はどうなってしまうのだろうか?俺はにわかに
不安になった。