朝 の 始 ま り (3)
俺のトレーの中身は周りとはちょっと違った。みんなは薄い食パン2枚にジャム
とチーズが付き、それにパック牛乳があった。俺のトレーにはパン1枚にバナナが
1本、それにカップに入った薬のような香りのする紅色のぬるい飲み物だ。これを
紅茶と呼んだら世の中の紅茶通たちが紅巾を被って怒るだろう。などと呑気なこと
を考えられたのは入院して最初だけで、その後退院するまでずっとパン1枚にまず
い紅茶という朝食が続くとは、この時は思いもしなかった。
朝食の後は少し休憩になる。しばらくしていつもの院内放送で何やら言っている。
デブが「早朝散歩だよ。ワシは行かんけどな。」と言ったので、俺外の空気を吸い
たいから行ってみようかな、と言うと、ブラックが「お前さんは行けないよ。ビギ
ナーズ・ミーティングが終わらないと外には出られないぜ。」と言った。俺は「ビ
ギナーズ・ミーティングってなんだ?」と訊くと「そのうちわかるさ。」とブラッ
クは横になったままで言った。答えるのが面倒臭かったのだろう。そりゃそうだ。
散歩へ行くような素振りすらブラックには見られない。デブも寝たままだった。
散歩する者はデイ・ルームの所にある階段口に集まっているとの話だったので俺は
暇潰しに、その様子を見に行った。そこには10名くらい集まっていた。ブチやピ
ンクもいたので俺はピンクに声を掛けた。
* これはフィクションです