朝 の 始 ま り (6)
俺の人生の中で、酒こそ最高の薬だと豪語し栄養ドリンクですら飲まなかった
俺にとって手にのせられた薬の山は悪夢以外の何ものでもない。(これを全部飲
むのか?・・・しかも後にいっぱい並んでいるではないか・・・)看護師たちは
にこやかに俺を見ていた。俺の朝の薬は、錠剤14錠に粒剤1包、それに180ml
はあろうアミノレバーといういかにも肝硬変に効きますというような名前が付い
たドリンク剤まであった。さすがにそのドリンク剤はテーブル席に持って行って
飲んでいいと言われたが、多量の錠剤を飲み込むだけでも四苦八苦だった。後ろ
にいた年寄りが片手に山ほどある錠剤を一気に飲み干す飲み干す姿を見て、俺は
素直に凄いと感心した。
こうして投薬が全員終わるとすぐに朝礼が始まった。ホワイトボードが出され
号令が掛けられた。その声の方を見ると同室のブチが立っていた。そういえば瞑
想の時の号令も同じ声の主、つまりブチだった。ホワイトボードに目を向けると
そこには時間割とその日の講義らしき名が書かれていた。それを会長と呼ばれて
いる年長者が改めて声に出しているだけだったが、俺が理解できたのは入浴や食
事などやミーティングなど馴染みの言葉はなんとなくわかったが、他のいくつも
の単語は意味不明だった。AAだのBBだのラーンだのラーニングだの全くもって
思考不能になってしまった。
部屋に戻ってそのことをデブに訊いても「そのうちわかるよ。」としか言わな
い。デブはそのうちわかったのだろうか?あるいは、わからなくても生きていけ
ているのだろう。ブラックは「お前さんは午前中のビギナーズ・ミーティングに
さえ出ておけばいいんだよ。」と俺に言った。