院内食事風景(2)

 合宿所のような食事風景の中で俺が驚いたのは、みんなとにかく食べるのが速

い。お互いに会話もなく黙々と食べ、食べ終えるとそれぞれに空の器をのせた

お膳を持って後片付けへ向かう。向かった先は、デイ・ルームの隅のスペースで

大きなバケツが6コ置かれていた。そこへ残飯や腕、皿、箸などを分けながら順

に入れている。自分で何でもできる輩はさっさと立ち止まることなくポンポンと

テンポよく入れていく。その見事な振る舞いには感心するのだが、その輩は間違

いなく経験を積んでいる証であり、院内で長く入院している姿でもあった。勿論

中には片付けが不自由な輩もいる。彼らには患者の中で決められた当番がそれを

手伝う。食べ終えた器がのったトレーをそのまま受け取ると、バケツリレーのよ

うに停まることなく隣、隣へとトレーを手渡す間に椀や皿、コップ箸などが並ん

だバケツの中へ消えていく。その連係プレーは見事なものだった。早く食べられ

ない輩の膳は看護師が頃合いを見て個々に片付ける。女性たちはまとまって姦し

く食事をしている。そこのテーブルの上が片付けば全体の食事時間と後片付けが

終わる。食べ終わった輩たちはそれぞれに部屋へと戻っていく。俺はそんな食事

風景を見ながら食欲なくタラタラと胃袋に箸を運んでいたので当然遅くなる。

横を通った看護師が声を掛けてきた。「ヤマダさん、今日はそこへ置いたままで

いいわよ。明日から自分で片付けてね。」優しくもキッパリとした口調だった。

 俺部屋へ戻った。戻るとデブが声を掛けてきた。「どうだった?ブタのメシみ

 たいだったろう。」俺は黙って頷いた。