院内の年寄りたち(2)

 もちろん元気のいい年寄りもいる。若いもんにはまだ負けられんとばかりに頑

張って自分で何でもやっている。そんな年寄りは当然ながら若いもんたちとも仲が

いい。ただその元気なエネルギーが歪な方向へ流れる年寄りもいた。その中でも一

番目だったのは食事の時だ。さすがにそのくらいの年寄りになると、配膳事にみん

なと一緒に列びなさいとは言われない。配膳車がデイ・ルームに着くや即、看護師

たちが率先して年寄りたちの席へ膳を運ぶ。だが、あれは食わんこれは食わん、マ

ズくて喰えんなどと言って看護師たちを困らせる。それでも看護師たちは甲斐甲斐

しくも「もうちょっと細かくしてあげようか」とか「これだけでも食べようや。」

と世話を焼いている。俺が家でそんな我儘を言ったら大変だ。どうなるか想像もし

たくない。だから看護師が年寄りに優しく接しているのを見るとなんだか心が温ま

る。給料を貰っているのだから当然だ、と思っている輩も多いのだろうが、給料を

貰ってもやりたくないと思っている人も多いはずだ。俺が想像したくなかった方も

その一人だ。だから俺は憎まれ口をたたかれても仕方がないなと思えてくる。

 俺は夜中はほとんど寝ていない。寝たい時に寝る生活習慣だった俺は、家ではテ

レビが子守歌代わりだった。子守歌は途中砂嵐を響かせようが朝まで歌いっぱなし

だった。そのテレビが部屋にはない。寝られないのは当たり前だ。俺は一時間おき

にデイ・ルームへお茶を入れに部屋を出る。早朝4時頃デイ・ルームへ行くと必ず

決まった席へちょこんと背中を丸めて座っている年寄りがいた。