院内ブラブラ歩き(5)

 院内3階の端から端まで歩いてもたいした距離にはならない。俺がゆっくり歩き

ながら見物しても10分と掛からなかった。それでも今日はいろいろな経験をした

せいか、身体より精神的なダメージの方が遙かに大きかった。B棟のベランダに出

て外の空気を吸って精神を鎮静させることにした。ベランダに置かれた3台の古い

洗濯機がフル稼働で轟かせ、シャツやパンツなどの湿った大量の洗濯物が風に揺れ

ていた。今の俺の心境を象徴する心憎い演出だった。俺は自分の部屋があるA棟へ

戻ることにした。それにはデイ・ルームを通り抜けるようになる。デイ・ルームは

先程より多くの患者がいた。患者といっても一般の病院と趣が異なるのは、みんな

パジャマや寝巻姿ではなく、殆どがトレーナーやジーパンのような活動しやすいも

のを着用している。それが合宿所のような雰囲気をさらに醸し出している。昼の活

動時間が終わったのか、みんなのんびりと過ごしている。テレビを見ている輩、お

茶やコーヒーを飲みながらお喋りしている輩、新聞や雑誌を広げて見ている輩、将

棋を指している輩、みんな一往に寛いでいた。老若男女の比率の比率はとても偏っ

ていた。圧倒的に年寄りが多いし男が殆どだ。この比率が逆だったら世も末なのだ

ろう。そんな中で一際賑やかに話をしているグループがあった。院内ではそんな

「世も末」グループと言っていいのだろう。俺は57歳だがこのグループに入って

いても違和感はなさそうだった。その賑やかなグループを尻目に通り過ぎようとし

たら声を掛けられた。