院内の年寄りたち(4)

デイ・ルームでの食事の時は各自の席が決められていたが、俺の席の隣は空席だっ

た。ある日そこへ新顔が座っていた。新顔といっても随分と古い顔立ちは、それな

りの人生を物語っていた。そして好好爺ならぬ我儘妖怪に化身していた。彼の口か

らは、ご飯は固くて喰えん、酢の物は喰わん、野菜はダメ、肉は固くて歯に引っか

かる、麺類は嫌いだと言いたい放題だった。それに朝食に付いてくるパンや牛乳も

受け付けずチーズも嫌いとなれば看護師たちも呆れ果てるしかない。匙を持とうと

しないおじいちゃんに看護師は匙を投げるしかなかった。俺はその隣でもっとラン

クが下の粗食を食べながら、おじいちゃんには同情していた。普通の人?だって精

神病院へ入ったら大きなショックを受けてしまう。ましてやこんなに元気なおじい

ちゃんがある日突然にこんな世界へ送り込まれてきたのだ。文句や愚痴の一つや二

つ言いたいだろう。だがその相手はここに居ないのだ。しかも電話も掛けられない

し家族との面会は2週間過ぎないとダメだとなると、おじいちゃんの沸き上がるエ

ネルギーの鉾先は当然目の前の、ちょっと旬を過ぎてしまった白衣の天使に向けら

れるのは当然だ。本物の天使が相手なら、後ろについている神様を意識して悪態を

吐くのも憚れるのだが、この病院の天使たちの後についているのはお医者さんだ。

それでも十分に効果がありそうだが、新顔のおじいちゃんはまだここの天使たちの

怖さを知らない。俺はおじいちゃんの負のエネルギーが少し収まるまで静観するこ

とにした。

 

       *これはフィクションです