院内ブラブラ歩き(3)

 院内をブラブラしているのは俺だけではないのだ。年配のおじいちゃんは小綺麗

な洋服を着込んで看護師に言った。「今から家へ帰らんにゃならん。ちょっと鍵を

 開けてくれ。」おじいちゃんの孫娘のような歳の、その看護師は軽くあしらう。

「はいはい、家の人に迎えに来るように連絡してみようかねえ。それまでお部屋で

 待ってってね。」するとおじいちゃんは「一人で帰れるから早く開けてくれ。」

と、帰る気満々で言った。そりゃそうだ。おじいちゃんはキャップを被ってコート

を羽織って、手には大きな荷物を提げていた。看護師は言った。「今は帰れないの

 よ。玄関も閉まっている時間だから、夕方になったら、家の人に迎えに来てもら

 うから、とにかく待っててね。」その緊張感のないやりとりを聞いていた俺は、

これも毎日の風物詩なのだろうと思った。。おじいちゃんがブツブツ文句を言いな

がら歩いて行った。その反対方向の遠くで大きな声が響いた。「おじいさん部屋が

 違うだろう。また間違えているよ。トイレを出てすぐ右へ行くんだって、いつも

 言っているだろう!」そんな声が聞こえてきても看護師たちは動じることもなく

淡々と仕事をしていた。これもまた、いつもの風物詩なのだろう。俺は声のした方

へ行ってみる事にした。