初心者ミーティング(3)
DVD鑑賞会が終わると看護師が言った。「今からみなさんにビデオ(年齢がビデ
オ世代だとDVDでもこう言う)を見た感想を言ってもらいます。何でもいいかで
率直な気持ちを聞かせてください。では左の廊下側から時計回りに順番で言って
ください。」 俺はこの部屋へ入った時、なぜ看護師から窓側の空席に座るよう
に促されたのか、その理由が今理解できた。俺は廊下側から順番が回ってくるみん
なの話を参考にしようと、その時は素直に思った。
みんなの感想は一様に似たようなものだった。自分はアルコール依存者なんかで
はない。だがアルコールによって家族に迷惑を掛けたので今は反省をしている。と
か、自分はアルコールで身体を壊してしまったので、ここで休養しながら回復して
いきたい、とかいうものだった。俺はそんな優等生ぶった感想よりもっと興味深い
ものを観察していた。それは看護師2人の言動だった。1人の看護師は患者が感想
を話す間ジッと発言者を観察するように見つめ、もう1人山積みされたバインダー
から一つ抜き出しては、発言者とバインダーを交互に見ながら、時々頷きながら何
やら書き込んでいた。けっして見て楽しくなるような事が書かれていないのは、そ
の看護師の表情に出ているし、バインダーの数が出席者の数と同じなのは、初心者
ミーティング参加資格者のほぼ全員が個々に揃っているということで、どうして参
加率が高いのかは、全てあのバインダーの中にあるのだろう。ようするにみんな早
くこの病院を出たいのだ。
*これはフィクションです