終章(コーダ)・エッセンの修道院で(1)


(いよいよ、最終章です。お楽しみに!)
「あら院長、珍しいですね。ヴァイオリンを出されてるいるなんて。」
「院長と呼ぶのは止めてと、いつも言っているでしょう。アンナいえアンヌと呼んで頂戴。」
「院長をお名前では呼べません。院長は院長ですわ。それでどうなされたのですか?ヴァイオリンなんかだされて。」
「今朝、あなたが私のもとに手紙を持ってきてくれたでしょう。」
「パオラさんからのお手紙ですね。お懐かしいお名前で、ここへ手紙を持ってくるだけで、なんだか私、感動してしまいましたわ。それで、何かいい事が書いてありましたか?」
 アンナは黙って首を振った。
「あなたも覚えているでしょう。ヴァイオリンのキアレッタ、私たちのキャラを。」
「当然ですわ、忘れるはずがありません。私の憧れの方でしたもの。尊敬していました。」
「そう、私も姉のように慕っていたし、彼女も私を妹のように可愛がってくれたわ。その彼女、キアーラが亡くなったそうよ。」
「ああ、なんて事なのでしょう・・・院長、心中お察しいたしますわ。いくらお悔やみ申し上げても、申し上げきれませんわ。今日はなんて悲しい日なのでしょう。」
「いいのよ、キャラは私より21歳上だったから76歳よ。神様からお迎えがあっても仕方がない歳でしょう。彼女はピエタに残って、ヴァイオリンの指導者として生涯を全うしたそうよ。幸せな人生だったと信じているわ。」
「だからだったのですね。院長が珍しくヴァイオリンを出されていたのは。」
「ええ、このヴァイオリンにはキャラたちとの思い出が凝縮されているの。私の掛け替えのない大切な宝物よ。」
「そのヴァイオリンは、たしかストラドでしたね?」「そうよ、あなたは管楽器だったからわからないかもしれないけど、ヴァイオリン奏者にとってストラドは垂涎の的なのよ。しかも私はそのストラディヴァリウス先生とお話までしたのよ。それにヴィヴァルディ先生ともね。本当に宝物のような思い出よ。」