エッセンの修道院で(4)


(眠たくなったなあ〜)
「そうよ。ヴィヴァルディ先生はアントネッラの為にフルート協奏曲【五色ヒワ】を作曲したわ。五色ヒワは、顔にある赤い斑点がキリストの受難を表す象徴だと聞いていたけど、実際の先生の曲は素晴らしく美しい曲だった。この曲がなぜ受難なの?私はいつもそれが腑に落ちないでいたの。ある日フィレンチェで、私はラファエロの絵画、聖母子像に五色ヒワが描かれているのを見たの。その絵画の中の聖母マリアも幼児キリストも、受難を暗示させるような不吉な雰囲気は全くなく、それどころか平和で幸せそうな絵だったのよ。その時に思ったの。キリストの受難とはすなわち、キリストの復活の事ではないかと。つまり、先生のフルート協奏曲【五色ヒワ】は、キリストの復活を祝福した曲なのだとわかったの。そう考えながら題名が付いているフルート協奏曲を1番から並べてみたの。【海の嵐】【夜】【五色ヒワ】とね。そうすると、最初は不吉な題名だと思っていたものが、全然違うように思えてきたのよ。【海の嵐】は海運国家ヴェネチア、【夜】は安らぎではなく、魑魅魍魎の蠢く世界を、そして【五色ヒワ】は、難あってもきっとうまくいくというメッセージだと読めたの。
 ヴィヴァルディ先生は秘密結社の一員であった事を考えたら、先生からフルート居箏曲を作曲してもらったアントネッラはその同志の関係者である可能性が高いと推測できた。だったらハプスブルク家の貴族の関係者ではないかと。」
 アンナは話しながら、目の前の彼女がだんだんと緊張していくのを、彼女の手先の小刻みな震えから感じた。