アンナとクララ


(前回は私も文章も見苦しくなってすみません)
 クララは、自分がヴェネチアから脱出できた経緯を今、初めてアンナから聞いた。今日まで、自分が助かったのはアンナとパオラのお蔭だとばかり思っていた。こんなにたくさんの仲間によって助けられた事を、クララは今回初めて知った。クララはアンナの話を泣きながら聞いていた。
 アンナが泣いているクララに優しく訊ねた。
「一つ訊いていい?あなたはなぜアントネッラに手を掛けなかったの?」
「だって彼女は素晴らしい演奏家で、私は心から尊敬していました。だから反対に私が倒れる事で彼女に警鐘を鳴らしたのです。あなたがスパイだと知られているっていう事を。
 私が許せなかったのは、ピエタにきて練習をしなくても『合奏の娘』から追い出される事もなく、のうのうと暮らしていた特別な娘たちだったのです。」
「そうだったの。結局あなたも含めて、音楽を心から愛していた皆が、素晴らしい仲間だったのね。それがピエタ合奏団であり『合奏の娘』だったのよ。」
 その日の夜、珍しく修道院内にヴァイオリンの音色が響いた。それが何の曲であるかなんて誰もわからないだろう。もう演奏される機会もないような曲だ。もちろんクララだけはわかっていたはずだ。その曲はヴィヴァルディに決まっている。キアーラの訃報が届いた今日だ。だったらアンナの弾いているヴァイオリンは当然【調和の霊感】に決まっている。