ウィーンの共同墓地で(3)

 アンナはしばらくの間、泣きながら祈った。そして愛しむように、その小さな墓をゆっくりと両手で撫でていった。その時だった。手の平に何かギザギザとした違和感のある感触があった。よく見るとなにやら薄っすらと字が彫り込まれていた。それを注視したアンナは驚愕して叫んだ。
「デン!あなた凄いわ。本当に先生のお墓よ。これが本当にヴィヴァルディ先生のお墓だったのよ!」
 確かにその粗末な小さなお墓には、『ANTONIO LCIO VIVALDI』と彫られていたのだ。
 アンナはデンの首に右手をまわし、左手で字をなぞっていった。よく見なければわからないような、拙く薄い手彫りの字だったが、そこに彫られていた文字は間違いなくヴィヴァルディの名前だった。一体誰が?もしかしたら誰かの悪戯かも?という懸念もあったが、奇跡的な発見をした喜びの方が勝った。アンナは再びその墓に手を合わせて祈った。