【調和の霊感】を終えて(2)


 去年の8月に音楽活動の廃業を決めたものの、では何をやっていこうと決まっていた訳ではない。どうしようかと悶々と考える毎日を送った。いろいろと選択肢もあったが、結局居酒屋を始める事にした。なぜ居酒屋なのか?と周囲からは異口同音に訊かれたが、その都度適当に答えたような気がする。何十年もやって来た事を辞める決断をして、何日も悶々と考えてきた事を、親友でもない者に一言二言で語れるものではない。親友だったら情緒的になりもっとめんどくさい。家内には8月に「音楽を辞める」と言い、9月に「居酒屋をする」と言ったきりだ。それ以降家内は何も訊かないし何も言わないで、それを受け止めてくれている。本当に感謝だ。居酒屋に転身したキーワードは、食の興味、酒の趣味、音楽の限界、歳をとっていく母親、歳をとっていく私たち、などなど。それから居抜き物件を探してもらって11月初旬に開店するまでは、本当に慌しく忙しく、心は不安でいっぱいだった。開店すると今度は忙殺という言葉がぴったりなくらいの生活だった。その様子をこのブログに載せたりしていた。だがお客さんの事はプライバシーになるので書きたくなかったし、忙しい割にはやっている事は単調だったので、ブログは今年になって音楽ミステリー小説として載せる事にしたのだった。それが【調和の霊感】だった。サボり気味の私のブログが、【調和の霊感】によって日曜日以外のほぼ毎日連載できた。しかも原稿を読み返しながら、多くの補筆、校正しながらの楽しい作業だった。主人公アンナにキャラやパオラが絡む。アンナとキャラは私の中で何人かのキャラクターを重ねてつくった。パオラとアントネッラは私がイタリアの講習会へ参加した時、仲良くなった女友達の名前も性格もそのままだった。だから書き直していて本当に楽しかった。大型犬デンもルナピンスキーそのままだった。文芸賞に投稿した時は蛇足だと思い削除した、アンナとデンがバチカンとローマで過ごす部分も初稿を引っ張り出して載せた。そうなのだ。今年になって、買い出しをして、ブログを書いて、お店で準備してお客さんを待つという生活リズムが私の中で定着しつつあった。と、言いたい(書きたい)ところだが世の中はそんなに甘いものではなかった。