【調和の霊感】を終えて(4)


居抜き物件のそれまでのお店は、こてこての和風の居酒屋だったが、将来を考えて今度は洋風な居酒屋にする事にした。洋風な居酒屋とはいってもメニューが洋風に変わるものではない。もっとも今までだって和風ではなかったのだが、ようするに今まで通りの和洋折衷、創りたい物を出す事にした。
 紆余曲折あったが、なんとか8月13日のお盆からのオープンにこぎつけたのだった。
 僕の新たなる小説は、転職してから今までの体験を面白おかしくして軽く読めるような題材にした。当然僕がモデルの人物が主人公だがかなり美化している。舞台は東京だ。ピアニスト兼ピアノ教師を廃業して居酒屋をすることになった主人公をそれまで弟子だった大人たちが、主人公を陰なりに?助けるプロジェクトをつくて展開される物語だ。勿論フィクションだが、こんな展開だったら最高に楽しいだろうなと思いながら書いていった。【調和の霊感】のようにたくさんの本を読んで資料をつくるような作業はなかったし、それどころか現実の出来事が僕にたくさんの示唆を与えてくれた。
 去年の1月に僕の親友が亡くなった。彼はミステリー作家だった。北森鴻だ。彼の本に香奈里屋(カナリヤ)という居酒屋を舞台に展開される短編ミステリーがある。そのミステリーは3冊にもなったのだが、最後は主人公が店をたたんで終える名作だ。彼が生きていたらコノヤロウと言われるかもしれないが、親友だった事に免じて許してくれると思っている。僕は小説の中でその店を見つけて居抜き物件として手に入れた。彼の生前でもそうだったが、架空の世界でも僕は彼に厄介になりっぱなしだ。
 今回も大型犬が登場する。グレート・デン(ルナ)でもベルジアン・タービュレン(ライ)でもない。バーニーズ・マウンテンドックだ。我が家で昔飼っていた犬だ。ムンと言ったが彼女がオスになってヨハネスとして主人公の犬になって登場する。
 現実の僕の新しいお店はなんとなく親友の小説のお店「香奈里屋」のようであって欲しいと願っている。