ここはいったいどこなんだ(2)

記憶が朧げながら甦ってきた。だが断続的にしか思い出せない。

 入院してすぐに俺はベッドから動けないようにコードのついたピンを

胸元に装着された。

俺が激しく動くとピンが外れ看護師が飛んで来るという寸法だ。

 俺は一日のほとんどをベッドの上で過ごしテレビばかり見ていた。

夜は卓上ライトを点けて本を読んだり暇潰しに何故か遺書まで書いた。

トイレの時はナースコールのスイッチを押して看護師を呼び出すのだが、

 それが間に合わず何度も漏らした。恥ずかしながら当然俺はおむつを付ける

破目に陥った。柔らかい飯でも3度の食事だけが唯一の楽しみになった。

 ある日、担当の女医が俺のパンパンに膨れた腹にチューブを入れ腹水を抜く

処置をしてくれた。2時間掛けて2リットル以上の腹水を抜いてくれた。

結果、ビックリするほど腹は萎んだが、「すぐに元に戻りますよ。」という

女医の言葉は残念ながら当たった。それでも体調は少しずつ良くなり、

このまますぐに退院できると俺は思っていた。

 ところが入院して一ヶ月過ぎたある日、突然女医から転院を勧められた。

 俺は今はっきりと思い出した。

 彼女が俺に勧めたのは精神病院だった。