第三幕第一場 第三夜(1)

  第三夜『自慢したがるケチな男』
「赤ハリ、私行ったわよ、あの店。そしたら居酒屋ではなくて、ただのワンショット・バーだったのよ。当然パスタなんてメニューに無くて、全部乾き物なの。私腹立ってマスターに、『私、乾き物嫌いなの。何か別の隠れメニューはないの?』って言ったらそのマスターが何て言ったと思う?」
 勿論誰もその愚問には答えなかった。何故ならその質問の主自身が、誰かの答えを期待して質問したのではないと誰もがわかっていた。その根拠は、まだ誰も答えていないのに、質問の主はすぐに話を続けたのだった。 
「『当店では一見様に裏メニューはお出ししません』だって。私ますます腹が立ったから『本当は簡単なパスタの一つも作れないのではないの?』と言ってやったわよ。それでカクテル飲んでさっさと帰ったわ。」
「タア子さんは勇気があるねえ。俺だったらそんな事言えないな。だってボラれたら嫌だもん。」
そう言ったのはノブタだった。そんなのだ。今日の『赤ハリの金曜日の会』はノブタも参加していた。ノブタはお店に入ってくるなり不遜にも当たり前のように私の隣に座ろうとしたが、タア子がそれを阻止してくれたのだ。タア子はノブタにL字カウンターの別側に座るように命じた。私のタアコ株がまた上昇した瞬間だった。
 #この小説はあくまでもフィクションです。