第三幕第一場 第二夜(3)

「ふ〜ん、赤ハリって結構気持ちが強いんだね。で、他の同業者の客でパスタにクレームをつけてきた人はいなかった?」
「いました、いました。そのお客さんは三〇代の男性でしたが、自分はイタリア・レストランで一〇年程修業したと言ってました。うちの店に来られた時には既に結構酔われていたのですが、私としてはヒヤヒヤものでした。はじめは気さくに話をしていまして、その時はアルコールしか頼まれなかったのですが、最後に何でもいいからパスタを出して、と言われましたのでボンゴレを出しました。」
「で、どうだった?何か言われた?」
「少しだけ箸をつけて、ゴメンこれ喰えんわ!と言って帰られました。」
 これにはタア子が怒った。
「え〜、なんて失礼な奴なの!」
「仕方ありませんよ。実際に私はイタリア・レストランで修業した事もありませんから。それにその方は相当に酔っていましたからね。」
赤ハリ先生は謙虚にそう言っても、タア子の怒りは治まらなかった。
「そいつは同業者を潰しに来たのよ。しかも酔った振りをすれば喧嘩も回避できるという姑息な手段を使ってきたのよ。」
「それは考えすぎでしょうけど、さすがに私は店でパスタを出すのを止めようと考えました。」
「バカねえ、そんな奴の事は気にしなくていいのよ。
そいつの店がどこにあるのかわかっているの?」
「ええ、名刺を置いていきましたので。」
「だったらその名刺を頂戴。私とブラマンの二人が今度その店に行って復習してきてやるから。」
(えっ、なんで私も一緒なの・・・)
「物騒な事をしないで下さいよ。」
赤ハリ先生はそう言いながらも嬉しそうに、その名刺をタア子に手渡した。
 翌日、タア子からその店へ一緒に行かないかと誘いがあったが、丁重にお断りした。それでどうなったかは、次の赤ハリの金曜日の会で詳細にわかった。