こうして俺は豚になった(1)

 俺は鏡の前で呆然と立ち竦んだ。頭の中の回路が目まぐるしく混乱していた。

こんな時の対応力が僕は弱い。いつもなら動かず静かに思案する。だが今は

対応力なんて関係ない。突然、俺の顔が豚になっていたのだ。誰だって狼狽する

だろう。俺は気持ちを少しでも落ち着かせるために部屋へ戻ることにした。

もともとは気持ちを落ち着かせるためにトイレに来たのだが・・・今は一人

突っ込みに自虐的な苦笑すら出やしない。

 部屋へ戻ってドアを開け入ると、同室のみんなのカーテンが全開だった。部屋を

出た時は気が動転していて気付かなかった。当然みんなの様子もよく見える。

そこに居たのはやはり豚たちだった。俺は不安になった。果して人間の言葉を喋る

事ができるのだろうか不安になった。3匹の豚たちに声を掛けてみた。

「こんにちは、お世話になります。」どうやら人間の言葉が話せそうだ。そして

みんなの返答も人間の言葉だった。だが、今の混乱した僕の耳に、彼らの自己紹介

は届いてこなかった。俺は彼らをその容姿から見たままのあだ名を付けて憶えた。

俺の向かいで寝ている豚は、太っているのでデブだ。(尤も痩せた豚は想像でき

 ないが・・・)その隣、俺の斜向いの豚は黒いのでクロ、俺の隣で寝ているのは

ブチにした。俺はベッドに座って冊子の続きを見た。病院内へ持ち込み禁止の品や

注意事項が羅列してあった。

その衝撃的な内容に俺は人生で初めて、本当に開いた口が塞がらなかった。

本当に開いた口が塞がらなかったのだ。