休憩コーヒータイム(2)

 以前、ギリシア神話のエコーの逸話を載せた事があったが、ギリシアでは美しい(おそらく)妖精ニンフのエコーは日本では木霊(ことだま、こだま)になる。木霊はきっと意地悪な男だと思う。だって、昨日一番高い脚立の一番上から落ちてしまった。あっちこっちチョキン、チョキンしていたからバチがあたったんだと思う。木霊が怒ったのだろう。脚立ごと倒れるのを避け、自分で飛び落ちたので何とか手首足首の捻挫で済んだ。(だから今日は剪定中止だ)
 さて僕の所属していたジュニアオーケストラは各楽器に専門の指導者がついていた。(けっこうな報酬だった)しかも指揮者は音楽大学の指揮科指導者レベルの人を招へいしていた。(報酬は本番だけでんん十万だった)市のレベルでこんなジュニアオーケストラを抱えているのは全国でもそんなにない。その当時で全国に6団体しかなく、予算はトップレベルだった。で、ただのフルート指導者だった僕がなぜ総務に抜擢されたのかはわからない。多分声が大きかったからだろう。(会議の進行等あらゆる雑用係だった)
 で、僕がなぜステージマネージャーになったのか?、その瞬間を僕ははっきりと覚えている。
 それはジュニアオーケストラの定期演奏会の日だった。指揮者は気難しい方だった。新幹線の席は窓側に喫煙でとか、ホテルはもっといい所をとか、指導者が最悪だとか(えっ、僕???)何でもはっきりと言われる方だった。どこのオケでもそうだろうが定期演奏会は日曜が多く、当日は朝ゲネプロ(おさらいですよ。何の略でしょう?)昼本番だった。で、朝のゲネプロが通し練習であるにも関わらず本格的な練習の様相になっていた。指導者達がざわついている。僕が能天気に「どうしたんですか〜?」と訊くと、その中の年配の女性指導者が「12時に練習終了して子ども達に昼を食べさせて着替えさせないと間に合わないのよ。」と言った。時計を持たない僕が会場の時計を見ると既に12時20分をまわっていた。指導者の面々は指揮者にビビってそれを言えないでいた。僕は、「指揮者に今日のタイムテーブルを渡しているんでしょう?じゃあわかってやっているのでしょうね。」と確認して「わかりました。言ってきましょう」とステージの下から指揮者に「すみませ〜ん。先生!もう時間がとっくに過ぎています。子ども達にお昼を食べさせないといけないので早めに切り上げてください!」と大きく声を掛けた。指揮者はジロッと僕を睨んで、不機嫌に「わかりました!」と指揮棒を置いた。この瞬間から僕はステージマネージャーになった。