山ちゃんの日本的生活のすすめ


(畳の上で寝てみたい❤)
 山ちゃんはかなり快適な寮生活を送っていたようだ。自室に冷蔵庫と電気調理器を持ち込んで日本食を中心に自炊をしていたようだ。本格的な日本食を作るときにはちょっとした日本人パーティーになる。それが「スキヤキ」だったり「ギョウザ」だったり「すし」だったりするのだが、不思議に招待してくれるのは日本人男性ばかりだった。日本人の女性陣は招待すれば来るが、自分たちから積極的に日本食を作る事はないらしい。よく「別に毎日黒パンを食べてもかまわないし、日本食はそこまでこだわらない。」と言っていた。要するに女性の方が環境に順応性があるのだ。男はダメだ!日本食が無いと生きていけない。で、それが可能だったからこそホームシックになることはなかった。
 さて日本食を確保した山ちゃんは、調子に乗って今度は純日本的な部屋をめざしたのだった。町の雑貨屋で中国製であろうゴザを1畳分約500円の物を3枚買った。今度は部屋の模様替えだ。部屋の半分以上を占めるベットが邪魔だった。ベットをマットレスが見える状態で横に立てて部屋の壁にピッタリと着けた。机と冷蔵庫を可能な限り窓側につけてゴザを敷く場所を確保した。そこへゴザを重ねて敷けば立派な畳生活だった。寝る時は壁に立てているベットからマットレスを引き倒せば、あっと言う間にベットになる!という寸法だった。素晴らしい部屋になった。
自画自賛かつ感動した。その感動を日本人の男と分かち合いたかった。山ちゃんはさっそく同じ寮にいるファゴット吹きの日本人友人を部屋に呼んだ。彼は大変感動してくれた。その夜は二人で畳に座ってちゃぶ台もどきでブランデーを飲み交わした。
 その幸福は長くは続かなかった。いや正確に言うと10時間も続かなかったのだ。翌朝、山ちゃんがマットレスで寝ていると、突然ドアが開いた。眠たい眼で見るとそこには二人の掃除夫の女性が立っておりビックリしたような顔をしてドアを閉めて去って行った。すぐに今度はその二人の掃除夫の女性と寮長の男性が入って来て、あっと言う間にベットを元の状態に戻された。そして出ていく際に「日本ではそうかもしれないが、ここではこの状態が普通なのだ。」と吐き捨てて去って行った。
 山ちゃんが寂しそうに朝食をとっていたら、昨夜一緒に飲んだ友人が来て慰めてくれた。いい奴だ!と思っていたが、この出来事は「笑い話」としてあっという間にデトモルトの日本人の間に広まっていったのだった。