山ちゃんドイツで初めてのお正月


(しつこいようだが彼ははベルギー犬だよん!) 
 ライヴィッチの本名はライという。2歳で山ちゃんの所へ来た時にはすでに名前が付いていた。だから山ちゃんはライヴィッチという趣味の悪い愛称を付けたようだ。ライヴィッチの原産国はベルギーだ。ベルギーの首都ブリュッセル近郊の村の名前をとって、ベルジアン・タービュレンと正式にいう。
 そのベルジアン・タービュレンに出会ったかもしれない山ちゃんは、デトモルトへ帰ってきて初めてのお正月を迎えた。クリスマスから新年の間、学生寮は閑散としていた。ドイツ人やその他のヨーロッパの学生たちは故郷に帰っていた。ペルー人など他国の連中は同郷の仲間たちと過ごしていたのだろう。寮は数人の日本人と韓国人が残っていた位だった。山ちゃんたち寮に残っていた日本人たちが集まってささやかな正月のパーティーをしたそうだ。だが、ささやかと言ってもお餅でお雑煮はあるしそれなりにご馳走であった。
日本人の学生たちは実家からそれなりにいろいろな物が送られてきたのだろう。送る側はせっかく送るのだからって、いい物を送ったのであろう。だから山ちゃんはドイツにいた時の方が旨い日本の物を食べていた。煎餅なんかも高級そうだったし、東京風のウナギの蒲焼もデトモルトで食べた。くさやの干物なるものやカラスミもデトモルトの日本人からご馳走になったものだ。食事だけではない。日本人の部屋は日本にいた時以上に日本的になっているものだった。暖簾や風呂敷や絵皿が飾られていたものだった。だから日本人の部屋はドイツの中でちょっとした故郷だった。だからだろうか山ちゃんはホームシックになった事は一回もなかった。