デトモルトの同級生Y


(ルナピンスキーとライヴィッチも同級生❤)
 山ちゃんがデトモルト音楽大学に入学した時、何人かの日本人同級生がいたその中にYがいた。彼は山ちゃんより歳は1つ下のチェロ弾きだった。日本で有名な音大を卒業してすぐに留学してきたのだった。だから山ちゃんより1歳若かった。彼は同じ寮に入って来た。口癖は「僕は先生に『世界のY』になって帰ってくると言って来たんだ。」だった。チェロの腕はともかく、自炊のレベルは完璧に0だった。彼のキッチンに立つ姿はまさしく料理の進化を見ているようだった。
 彼がまず覚えたのはボイル(ゆでる)する事だった。それがレトルトパックであったりパスタであったりした。バカにする事なかれ!彼は本気で山ちゃんに「これは水からゆでるのか?沸騰してゆでるのか?」とよく質問してきた。でも山ちゃんの指導ですぐに鍋でご飯が炊けるようになった。ボイルの次はソテー(炒める&焼く)だった。始めは肉であったり野菜であったりした。やはり火加減は大事であり難しいのだと指導しながら感じた。そのうち山ちゃんは部屋で自炊するようになったので彼の炊事を見なくなったが、1年くらい経つと煮物も出来るようになっていた。
 Yはひょうひょうとしていて、いつも物静かに語った。これは彼らしい有名なエピソードだ。2年後の話である。ある日本人が町中の通りでスーパーの買い物袋を持ったYに出会い「今から帰るの?」と訊いたら、Yが「はい!今から日本へ帰ります。」と答えたらしい。その日本人が「えっ??日本へ??荷物それだけ?」とびっくりして尋ねると「はいっ」とYは言って日本へ帰ったのだった。
 ドイツの大学は休みが長い。オランダ、ベルギー旅行が楽しかった山ちゃんは、春休みもまた旅行がしたくなったようだ。行き先をスペイン、ポルトガルにした。その話を寮でYに話した。Yはチェロの巨匠であるカザルスの出身地スペイン、特にカタロニアへ行く事に興味を持ち、自分も同行したいと言い出した。一人旅が好きな山ちゃんも今回は長旅であったので快く一緒に旅をする事にしたのだった。